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ソラン「ん、ハコからメール・・・?」
普段なら仕事中にあったことやソランに会えなくて寂しいとか禁断症状出そうとかそんな事が書かれている。
しかし、今回はただ一言


-愛してる-


件名も無く本文にただ一言だけ
いつもと様子が違うことにどこか嫌な予感がして部屋に貼られた【携帯電話使用禁止】のポスターが目に映ったが無視して通話をしようとする
スマートフォンを握るその手は脂汗まみれになっていた

結果、ハイコドにつながることはなかった

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______________________

簡単な仕事のはずだった
油断だってしていなかった
あまりにも突然過ぎた
ターゲットの生態も縄張りも弱点もいつも通り調べ尽くした

・・・いや、こんなことを言うということは心の何処かで油断していたということなのだろう
だから僕は今
         潰されている

今回の依頼はある竜の鱗を数枚入手してきて欲しいとのことだった
色々と・・・どう接したのかとか戦ったとか実は1体だけじゃなくて数体居たとかそんなことはどうでもいい
何日が経っただろうか
落下の際の故障か、あるいはバッテリー切れかスマホが動かず今が何日かわからない
お日様を3度見たということは少なくとも3日は経っているはずだ
五体満足ではあるが右腕が大岩の隙間に挟み込まれて抜けなくなっている
クルドリッパーを装備していたからか潰されなかったが皮肉にもそのクルドリッパーがパージできずにこうなっている
何度試してもバイザーにはERRORの赤文字が点滅するだけ
寝返りをうつくらいしか身体を動かすことはできない
ポータラカインナーのお陰で寒さに困ることは無いがはっきり言って辛い
食料ももってあと2日、節約すれば5日ほどだろう

ソラに会いたい、我が子の動く音を聞きながら妻と話がしたい
この状態になってから初めて頬に雫が流れた
こうなるのはわかっていたからこそ彼女の事を考えないようにしていたというのに

「生きるぞ、俺達は絶対に生き残るんだ」

その声がする方向に顔を向ける
信は魔鎧状態から人の姿になることでこの状態から抜け出すことが出来た
しかしこの谷底はハの字になっており飛行しない限りここから脱出することはできなさそうだった
しかもフェンリルもブリッツ・ブラストもおかしな事に完全沈黙
そのため信には脱出するルートと食料を探しに動いてもらっていたところだった

ニカッと信が笑う
「みろよ、キジが取れたぞ。これで2日はもつ」
手には見事に射抜かれたパラミタキジモドキが力なくぶら下がっていた
こいつは肉が硬いので焼くより干し肉にしてスープに入れたり煮込み料理のほうが上手いはずだ
しかし贅沢に使える水はないので丸焼きは確実だ

羽を毟って内蔵なども洗って枯れ木で作った串に刺し火でしっかりと炙る
わずかにある脂がポタッ...ポタッ...と落ちる度にジュッ!とウマそうな音と香りを出す
ここ数日栄養ブロックとエネルギーゼリーしか口にしていなかったため思わず喉を鳴らしてしまう

「ほら、コイツはもう焼けたぞ」

胸肉の串を信から受け取った瞬間に我慢できずに齧り付く
僅かな塩で味付けられた肉は固めだったがその手応えが逆に食欲をかきたてる
噛むほどに肉汁が少しずつ出てきて満腹感を満たしていく
気がついた時には串で6つほど平らげていた

「北の方はダメだった、完全に崖だ。登ろうにもあの角度だとな・・・」

平気だと信は言うがどう見ても疲労が溜まってきているように思えた
無理もない、片道13キロはある谷底でここ数日毎日一人で脱出ルートを探しているのだ
だれだってこうなる

「それと、もしかしたらだがここは機晶エネルギーを弱くする土地なのかもしれない」

「・・・もしかしてクルドリッパーのエラーも携帯の故障も?」

「そうだと考えたら合致する、フェンリルが動作しないのもそれが原因だろう」

そこで一呼吸置いて

「・・・・・・ハイコド、脱出ルートを見つけても3日以内に俺が戻ってこれなかったらその時はそn「それ以上言わないでくれ」

信が何を言おうとしたのかは判る、だから遮った
その言葉を聞いてしまったら僕は信を左腕で殴ってしまいそうだったから


「なぁ、信?」

「どうした」

「やっぱりさ...自分の子供は自分の腕で抱きたいよ」

「・・・」

「怒る時だって褒める時だって慰める時だって助ける時だって・・・自分の腕でやりたいよ」

「すまん」

「ごめん今日はもう寝る・・・おやすみ、信」

「あぁ、おやすみ」

寝る前にソラの事を思い出してしまい溢れ出る涙を僕は止めることが出来なかった。したくなかった。
嗚咽の音が谷中に響いて聞こえるようなそんな気がした。
谷に落ちる直前に出したメール、あれは届いているのだろうか

「死んだら見ることも出来ないからな、そこはちゃんとわかっていてくれよ」

「死ぬ気はない」

おやすみともう一度つぶやき目を閉じた
数日ぶりに腹が膨れたからかすぐに意識は薄れていった


目が覚める、まだ辺りが薄暗い
ここが谷底だからか結構な時間が経たないと太陽を拝むことが出来ない

[ハコ兄様~いきてますか~]

あぁ、幻聴が聞こえる・・・どうせなら風花じゃなくてソラのほうが良かったかな

[もーしもーし]

・・・・・・・・・・・まさかと思い頭のなかで反応する

[あのー・・・・フウカサン?]

[まったくもー何処をほっつき歩いているんですか、ソラ姉様が心配して電話をかけてきたんですよー]

[・・・・これテレパシー?]


【テレパシー:遠くにいる相手と声を用いずに会話が行える。対話相手に選べるのは、双方ともに面識がある人物に限られる。通話は「自分の思考を相手に送る」「相手がこちらに向けて発した思考を受け取る」の繰り返しで行われ、一方的に相手の思考を読み取ることはできない。】


[そうですが?]

もはやため息を付くしか無い
もっと早くやってくれとか昨日の悲しみは何だったんだとか色々ぶちまけてやりたかったがこの時までテレパシーを使わなかったのは僕らなら無事だろうと信じてくれていたからだろう

[悪いけど今いう地点に来てくれないか、ロープとか救助用のブツ・・・・それと温かいご飯。依頼は達成してるから心配しないで]

「えっと、何かあったのですか?」

「実は.....]

この後僕らは風花たちに助けられて依頼品を依頼者に届けることが出来た
もちろんしっかり叱られて






「まったくもー、心配かけないでよね。自分一人の身体じゃないんだから」

「面目ない」

病院のベットで安静にしながらプンスカ怒っている妻を前に縮こまるしかできない
うわぁ、こんなんだから尻に敷かれているとか言われるんだよなぁ

「だけど腕を切ろうとしなかったのは正しかったよ」

「ソラ・・・」

「右腕もない状態で私の前に出てきたらその首はねるところだったからね、愛情を込めに込めて練りこんだ居合で」

顔は笑っているが目がマジだ
愛が重いっ!

縮み上がっているとソラはベットから降りて僕を優しく抱きしめた

「ごめんね、何の力にもなれなくて。怖かったでしょ?辛かったでしょ?」

「怖かった、あのままソラと二度と会えなかったらどうしようかと思った」

「もし死んでたら私も死んでやる」

「絶対に死ぬな!何があっても死ぬな!」

力の限り叫んでいた、見えてはいないが看護婦さんがこちらを見ているかもしれない
ソラは満面の笑みを浮かべて

「そう言うならハコが絶対死ぬな、ハコが生きてる限り私も生きるから」

そう言った。

この時から
結婚を誓った時よりも、結婚式で言った時よりも子供が出来たと分かった時よりも
僕の人生の中で間違いなく
生きるということを貪欲に望むようになった。

これは悪いことなのだろうか?
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